照明から照射された光は、対象物の表面において反射、散乱、屈折、吸収等、何らかの作用を受ける。この光の変化によってカメラで撮像される画像に濃淡が生まれる。ここで物体から作用を受けた光は、直接光と散乱光に分類することができる。
まず照明から照射された光が、対象物によって反射する場合を考えてみる。対象物が「ミラー」のとき、照明からの光がそのまま乱れることなく反射され、カメラで照明そのものが撮像される。ミラーへの入射角と、カメラへの反射角は同一となる。この反射された光も直接光と呼ぶ。
対象物が「白紙」のときはどうだろうか。照明からの光は、白紙表面側の全方位に散乱され、カメラはどこから観察しても同じように明るく撮像される。この光を散乱光と呼ぶ。
次に照明から照射された光が、対象物によって透過する場合を考える。対象物が「透明ガラス」のとき、照明からの光がそのまま乱れることなく透過され、カメラで照明そのものが撮像される。透明ガラスへの入射角と、透明ガラスを透過した出射角は同一となる。この透過した光を直接光も呼ぶ。
同じように対象物が「曇りガラス」のときは、曇りガラスを透過しながら、ガラスの両面の全方位に光は散乱し、これもどこからカメラで観察しても明るく撮像される。これも散乱光と呼ぶ。
ここでは照明の位置を固定して、カメラの位置を変えることで撮像画像を変化させているが、通常はカメラを対象物に対して垂直に設置し、照明の照射方向を変えることで特徴を抽出するのが一般的である。
このように照明法には、直接光を観察する直接光照明法と散乱光を観察する散乱光照明法がある。直接光は明るいため前者を明視野照明と呼び、散乱光は暗いため後者を暗視野照明と呼ぶ。明視野と暗視野では白黒濃淡が完全に逆転する。この濃淡の違いがより大きくなる照明法を使い、認識しやすい画像を作るのが照明の役割である。この照射方向を様々に変えるために、各照明メーカは様々な形状、照射形態のラインナップを各種取り揃えている。
明視野照明の使い方としては、鏡面(光沢面)上に面発光の照明を映り込ませるように明るく撮像して、その面の汚れや傷を暗く撮像することで特徴点を認識する。また、バックライト等でフィルムを透過させ、そのフィルムの表面および内部にある汚れ、傷、気泡等を暗く撮像して認識する。一般に同軸照明やバックライトがよく使われる。いずれも面発光が前提となる。
暗視野照明の使い方としては、鏡面(光沢面)に対して垂直にカメラを設置し、斜め方向から光を照射させることで、ほとんどの直接光は入射角と同じ出射角で反射してカメラに届かず、傷や汚れで散乱した光のみを明るく撮像して認識する。透過でも同じく、対象物の向こう側から斜め方向に照射して、表面及び内部にある汚れ、傷、気泡等を明るく撮像して認識する。一般にローアングル照明や、斜光としてバー照明などを利用することが多い。
明視野照明では、照明の輝度か、対象物の反射率(もしくは透過率)が高いほど明るく撮像される。
暗視野照明では、照明からの対象物上に照射された光の照度か、対象物の散乱率が高いほど明るく撮像される。また、明視野照明では面発光の均一度が要求され、暗視野照明では、照射面での照度分布の均一性が要求されることとなる。
通常我々が生活している空間では、人間の目はほとんどのものを散乱光で見ている。このとき、光源から直接照射された光だけでなく、周囲からのさまざまな反射光(室内であれば、壁、天井、床等周辺の物体から反射される光)で照らされた状態で見ている。このため、比較的明るさの陰影は少なくなる。直接光では照明そのものを見ていることになり、物体の色は見えにくくなる。
赤い車のボディに天井の蛍光灯が写り込んでいるような状態では、全体的には散乱光で車は赤く見えているが、蛍光灯が写り込んだ部分は白くなり色を認識することはできない。このためカラーカメラでの色を識別する場合は、暗視野照明で散乱光による観察が効果的ということがわかる。光沢の度合いにより、映り込みが強ければローアングル照明、弱ければドーム照明や拡散照明を使い分けることが多い。
波長の異なるLEDの光は、色の認識に有効であることを先に述べたが、暗視野照明の散乱光観察にも光源の波長は影響を及ぼす。波長が短くなるほど散乱率が高くなるのである。660nmの赤色を1とすると、525nmの緑色で2.5倍、470nmの青色で4倍、375nmの紫外で9倍もの違いがある。このため、暗視野照明として青色のローアングル照明やバー照明が有効となることが多い。紫外になると、散乱率が上がる代わりに、カメラの感度が低下するため、あまり使われることは少ない。
逆に波長の長い850nmの赤外になると0.4倍となり、散乱率が低下する。波長の長い、赤色や赤外は透過率が高くなるのである。これにより一部のインク、茶色の瓶、黒い醤油等を透過することができる。透過目的の照明は、リングやバー照明、バックライトで使われることが多い。
光は電磁波であり、電磁波は進行方向と垂直に振動する横波である。自然光はこの振動方向がランダムであるが、特定の方向にのみ振動する光を偏光という。液晶ディスプレイはこの偏光を利用して動作している。光源となるバックライトからランダムな振動方向の光が放たれるが、その光を液晶の裏側の偏光フィルタによって特定の振動方向の光だけを透過させている。この光が液晶層を通過するときに偏光方向を変化させることで、表側の偏光フィルタが制限する特定方向の偏光成分の光だけを透過させ表示させている。
マシンビジョンにおいても、この特性を使って光をコントロールすることができる。照明の発光面に偏光板を装着し、特定の振動方向の光を対象物に照射する。この偏光は物体の作用により、直接光では振動方向が変わらず、散乱光では振動方向が乱れる。偏光フィルタを装着したカメラでこの光を撮像し、偏光フィルタを回転させることによって偏光方向が直交する光をカットすることができる。すなわち、直接光をカットし、散乱光のみを撮像することができる。光沢のある対象物に照明が映り込むようなとき、この映り込みをカットできるのである。
ライティング技術として、対象物での光の作用、照明の照射方向、光源の波長、散乱率と透過率、偏光等それぞれの影響によって撮像結果が大きく異なってくることを述べた。これら様々な条件を最適化するように照明を選定しなければならない。さらにカメラ、レンズ、画像処理等のシステム条件の要件を満たすよう、検討が必要となる。
以下に標準的な照明選定のステップを示す。
これら条件を満たす照明を、ワークの撮像実験を行いながら、適応を評価して確認していく。まずは標準のラインナップから照明選定を行うが、システムの要件を満たさない、もしくは特徴抽出が不十分となれば、カスタマイズにて対応していくことになる。
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